聖イグナチオ・デ・ロヨラの劇的な生涯の劇
鹽野めぐみ
1
第一幕 第1場
1521年5月 パンプローナ城の広間
登場人物: 騎士 イニゴ・デ・ロヨラ
城主 フランシスコ・デ・エレラ
騎士 ホアン
騎士 ロドリゴ
物見 ミゲル
(張り詰めた雰囲気の中で作戦会議が行われている。物見ミゲルが駆け込んでくる)
ミゲル: 東の森にフランス軍の旗が見え始めました。屋上から見る限り、相当長い隊列のようです。
ホアン: 今朝の報告ではナバール軍と合わせてわが方の数倍に達するとのことです。この城の人数では到底持ちこたえら れないでしょう。
ロドリゴ:パンプローナの町はほぼ占領されたとのこと。この城に達するのも時間の問題でしょう。城まで敵が近づかない うちに和を講じて、無駄な血を流さないようにしましょう。
城 主: 一戦も交えずに、城を明け渡すというのか?
ロドリゴ:多勢に無勢、今我らに利あらず、と見ます。フランソアⅠ世の総司令官は開城を迫っています。
イニゴ: イスパニアの援軍が間もなくやってきます。それまでこの城を死守することこそ我々の努めと考えます。 おめおめ敵に降伏したりすれば、イスパニアの騎士の名が廃れます。我らを頼りにしている姫君たちにも顔向できません。 方がた、城を枕に討ち死にし、我らの命を国王陛下と女王陛下にお捧げしようではありませんか。
城 主: イニゴの言うとおり!諸君、この由緒ある城を守り抜こうではないか!
【黒い使いの合唱】
♪イニゴよイニゴ その調子 騎士の名誉を 守り抜け
かの姫君の 汝への 信頼もまた いや増さん
天晴イニゴ 名を挙げよ
〖白衣の天使の合唱〗
♪ああイニゴ 神と親より 汝なが受けし 尊き命
捧げんと 息巻きおれど その時は いまだ来たらず
汝が言葉 武くはあれど もののふの 野心に満てり
≪かげのこえ=註≫
『霊操』の生みの親である聖イグナチオの生涯をたどることにより、霊操の生まれた契機と背景を知り、聖イグナチオ の霊性への理解がいささかでも深まるよすがともなればと、連載を始めてみました。気軽に、面白く読んでいただければ と、劇の形にしてみたものの、どこまでこの様式を続けられるのか心もとなくもあります。
『霊操』において大切な「霊の識別」との関連から、巡礼者イニゴの内心に去来する考えや、その霊を動かす善霊と悪 霊を合唱(コロス、コーラス)の形で表してみましたが、果たしてうまくいきますか?菲才を顧みず始めるのは、(回心 前の)イグナチオ的 向こう見ず、及び、途中から読者がしびれを切らして、ご自分で『自叙伝』を紐解かれ、聖人が晩 年カマラ神父に語った「生の声」を聴かれるようになればとの思いからでもあります。
≪参考文献≫ 第一幕 第2場に・・・・・・・・・