第一幕 第2場

 

           聖イグナチオ・デ・ロヨラの劇的な生涯の劇
                  鹽野 めぐみ

                    2

                 第一幕 第2場

            1521年5月19日夜 パンプローナ城の屋上

登場人物: 騎士 イニゴ・デ・ロヨラ 
      騎士 ホアン

ホアン:フランス軍は、いよいよ明日総攻撃と決めたようだ。君の勇気に皆打たれて
    徹底抗戦に賛同したが、どこまで持ちこたえられるだろう?
     明日が最期かもしれないね?

イニゴ:そうだね。その覚悟はできている。君には、幼い時からいつも一緒にいてくれ、ずいぶん世話    になったね!

ホアン:大事な節目のときいつも一緒だったね。今回が一番大きな人生の節目だけど。           イニゴ、君は死ぬのが怖くないか?僕はやはり怖くて足が震えているよ。

イニゴ:体が死ぬことはそれほど恐れないが、今死ぬと、人生でやり残していることがまだあるような    気がして、それが心残りなんだ。明日は死ぬと考えながら今までのことを振り返ると、どうして    あんなことしてしまったんだろうと悔いを残すこともたくさんある。このままでは神の裁きの場    に出られないよ。君、僕の罪の告白を聞いてくれないか?

ホアン:とんでもない。僕は神父じゃないんだから・・・告白を聞いても罪を赦すことができないよ。

イニゴ:今 城中に司祭はいないし、明日は決戦の日だから仕方ないよ。秘跡の告解にはならなくても    きっと神様はわかってくださるだろう。君はその石に腰かけてくれ。
     (イニゴその傍らに跪き、謙遜に告白する) 

ホアン:君は本当は謙遜なんだね!! 君の率直な告白を聞いていると僕の方が恥ずかしくなるよ。     神様がどうか君の罪を赦してくださり、天国に迎えいれてくださいますように。・・・・・        今度は僕の告白を聞いてくれ。

     (イニゴが友の告白を聞いた後、二人並んで跪きしばらく共に祈る。)


【黒い使いの合唱】
     ♪イニゴよイニゴ 野心家よ  己が勇名 轟かせ
      自己を満足させるため   城主と仲間の命さえ
      犠牲にするというのだな   それもよかろう 砕け散れ
                       
〖白衣の天使の合唱〗
     ♪ああイニゴ 決戦を前に   生涯を 顧み悔いて
      戦友に 告白するを    神もまた 嘉し給わん

      明日 汝  傷を負ふべし  されど汝が 命は尽きじ
      闘病の末  生まれ変わりて  御国のため すべきことあり

≪参考文献≫
  聖イグナチオ             『ロヨラの巡礼者』
  A.エヴァンヘリスタ・佐々木 孝 共訳  ――聖イグナチオ自叙伝――
                 1980  中央出版社

  聖イグナチオ          『ある巡礼者の物語』
  門脇佳吉 訳・注解    ――イグナチオ・デ・ロヨラ自叙伝――
                 2000  岩波書店

  St. Ignatius ≪A Pilgrim’s Journey≫
  Joseph N. Tylenda,S.J.  The autobiography of Ignatius of Loyola
  ――Introduction,Translation and Commentary―― 
  1984 Michael Glazeier, Inc.

  Gerald Coleman,S.J.      Walking with Inigo
  ――A Commentary on the Autobiography of St. Ignatius――
               2002 Gujarat Sahitya Prakash
 


         ーーーー次回作第一幕第3場(7月25日頃)につづくーーー


                                       2016年6月20日